東京地方裁判所 平成10年(行ウ)100号 判決 1999年7月14日
主文
一 被告が原告Aに対して平成九年一月三一日付けでした別紙物件目録一記載の土地に対する平成七年度分の特別土地保有税の減免不許可決定を取り消す。
二 被告が原告Bに対して平成九年一月三一日付けでした別紙物件目録二記載の土地に対する平成七年度分の特別土地保有税の減免不許可決定を取り消す。
三 被告が原告B、同C及び同Dに対して平成九年一月三一日付けでした別紙物件目録三記載の各土地に対する平成七年度分の特別土地保有税の減免不許可決定を取り消す。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 原告A
主文第一項同旨
二 原告B
主文第二項同旨
三 原告B、同C及び同D
主文第三項同旨
第二 事案の概要
本件は、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地一」という。)を所有する原告A、同目録二記載の土地(以下「本件土地二」という。)の共有持分を有する原告B、同目録三記載の各土地(以下「本件土地三」といい、本件土地一及び本件土地二と併せて「本件各土地」という。)を共有する原告B、同C及び同Dが、本件各土地に対する平成七年度分の特別土地保有税につき、それぞれ地方税法(平成一〇年法律第二七号による改正前のもの。以下「法」という。)六〇五条の二、東京都都税条例(平成一〇年条例第七五号による改正前もの。以下「条例」という。)一五四条一項二号に規定する減免申請をしたところ、被告がいずれも減免要件に該当しないとして減免不許可決定をしたため、原告らがそれぞれに対してされた各減免不許可決定の取消しを求めた事案である。
一 関係法令の定め
1 特別保有税の納税義務
特別土地保有税は、土地又はその取得に対し、当該土地所在の市町村において、土地又はその取得に対し、当該土地の所有者又は取得者に課する地方税である(法五八五条一項)。
なお、東京都の特別区の存する区域においては、法七三四条一項により、特別土地保有税は、東京都が課するものとされ、この場合においては、東京都を市とみなして法第三章第八節の特別土地保有税に関する規定を準用するものとされている。また、東京都においては、法三条の二、東京都都税条例四条の三第一項に基づき、徴収金の賦課徴収に関する事項は、一定の事項を除き、知事から都税の納税地所管の都税事務所長又は支庁長に委任されている。
法によれば、地方自治法二五二条の一九第一項の市(以下「指定都市」という。なお、法七三七条二項によれば、特別土地保有税に関する規定の東京都に対する準用については、特別区の区域は、指定都市の区の区域とみなす旨定められている。)は、同一の者について、当該指定都市の区の区域内において、その者が一月一日に所有する土地の合計面積が合計二〇〇〇平方メートルに満たない土地には土地に対して課する特別土地保有税を課することができないとされている(法五九五条一項一号)が、平成三年度から平成一二年度までの各年度の末日の属する年の一月一日(以下「基準日」という。)において、東京都の特別区の存する区域内に所在する土地で、当該土地の所在する一の特別区の区域内において同一の者が所有するもののうち、その者が昭和六一年一月一日以後取得した土地の合計面積が一〇〇〇平方メートル以上である土地に対しては、東京都において右特別土地保有税を課すものとされている(法附則三一条の四第一項、条例附則一八条一項)。
2 納税義務の免除
土地所有者等が所有する土地が次に掲げる土地のいずれかに該当し、かつ、当該土地の利用が、土地利用基本計画、都市計画その他の土地利用に関する計画に照らし、当該土地を含む周辺の地域における計画的な土地利用に適合するものであることについて、市町村長が認定した場合には、当該土地に係る特別土地保有税の納税義務を免除するものとされている(法六〇三条の二第一項、条例一五三条の二第一項)。
(一) 事務所、店舗その他の建物又は構築物で、その構造、利用状況等が政令で定める恒久的な利用に供される建物又は構築物に係る基準に適合するものの敷地の用に供する土地(次の(二)に該当するものを除く。)
(二) 工場施設、競技場施設その他の施設(建物、構築物その他の工作物及びこれらと一体的に利用されている土地により構成されているものに限る。以下「特定施設」という。)で、その整備状況、利用状況等が政令で定める恒久的な利用に供される特定施設に係る基準に適合するものの用に供する土地
そして、右のうち、恒久的な利用に供される特定施設に係る基準は、地方税法施行令五四条の四七第二項により、次のとおり定められている。
(一) その整備状況が同一又は類似の用途に供される施設について通常必要とされる整備の水準と同程度の水準に達しているものであること
(二) その利用が相当期間にわたると認められること
(三) その効用を維持するため通常必要とされる管理が行われると認められること
当該土地が納税義務免除の対象となる土地であるか否かの判定は、土地に対して課する特別土地保有税にあっては右税を申告納付すべき日の属する年の一月一日、土地の取得に対して課する特別土地保有税にあっては、右税を申告納付すべき日の属する年の一月一日又は七月一日(これらの日前に当該土地が他の者に譲渡されている場合には、当該譲渡の日)の現況によるものとされている(法六〇三条の二第七項、五八六条四項)。
3 特別土地保有税の減免
市町村長は、天災その他特別の事情がある場合等において特別土地保有税の減免を必要とすると認められる者その他特別の事情がある者に限り、当該市町村の条例の定めるところにより、特別土地保有税を減免することができる(法六〇五条の二)。
これを受けて、条例一五四条一項は、次の一に該当する土地又は取得のうち、知事において必要があると認めるものに対して課する特別土地保有税の納税者に対しては、規則で定めるところにより、当該特別土地保有税を減免する旨規定している。
(一) 災害その他これに類する事由により区画又は形質が変化し、著しく価値を減じた土地(同項一号)
(二) 公益のため直接専用する土地その他の土地で東京都都税条例施行規則(以下「規則」という。)で定めるもの(同項二号)
そして、右の(二)の公益のため直接専有する土地その他の土地で規則の定めるものは、規則三五条二項により次のとおり定められている。
(一) 公益のため直接専用する土地(同項一号)
(二) 文化財保護法五七条一項に規定する埋蔵文化財を包蔵する土地で、当該埋蔵文化財を包蔵していることにより条例一五一条一項若しくは一五二条一項の認定若しくは確認又は一五三条の二第一項の認定を受けることができないもの(同項二号)
(三) 前二号に掲げるもののほか、特別の事情があると認められる土地(同項三号)
また、規則三五条二項に定める土地に係る特別土地保有税の減免は、当該事情を考慮して知事の認める割合により減免することとされる(規則三五条三項)。
二 前提事実(証拠を掲げたもの以外は、当事者間に争いがない事実である。)
1 本件各土地は、原告A及びその母であるEが、昭和四四年一月一日以前から所有していたところ、平成七年一月一日の時点においては、以下の経緯等により、本件土地一は原告Aが所有し、本件土地二は原告Aと原告B、本件土地三は原告B、同C及び同Dが共有していた。
(一) 本件土地一
原告Aは、昭和六一年一二月二六日付けで、原告B外七名に対し、本件土地一を贈与したが、その後、平成三年一二月一八日付け売買により再び所有権を取得し、その旨の所有権移転登記がされた(乙四の一)。
(二) 本件土地二
原告Aは、昭和六一年一二月二六日付けで、原告Bに対し、右土地の持分二分の一を贈与し、同日付けでその旨の所有権移転登記がされた(乙四の二)。
(三) 本件土地三
原告Aは、昭和六一年一二月二六日付けで、原告B、原告C及び原告Dに対し、右土地を贈与し(各共有持分は、原告Bが一〇分の四、原告C及び原告Dが各一〇分の三)、同日付けでその旨の所有権移転登記がされた(乙四の三ないし一二)。
2 本件土地二の隣接地(平成七年三月二八日に分筆される以前においては同地番であった部分等)上には、昭和五五年五月二七日付けで建築確認通知を受けて建築した建物(鉄筋コンクリート造二階建、延床面積六三六平方メートル)が存在していたが、原告Aは右建物につき検査済証の交付を受けていなかった。原告らは、右建物を自宅として利用し、本件各土地上において駐車場経営をしていた。右駐車場は、深野エンタープライズ株式会社によって管理されており、右会社の設立当時の代表取締役は原告Bであった(甲一二、原告B本人)。
3 本件各土地は、特別土地保有税が創設された当時、その適用除外とされていたが、前記1記載のとおり所有権ないし共有持分の移転があったので、平成四年度及び平成五年度については、これにより所有者ないし共有者となった原告ら各人に対し、土地に対して課する特別土地保有税が課税された。
もっとも、原告Aは、前記2記載の建物につき約一〇平方メートルの増築工事を行い、検査済証を平成五年度末までに取得し、その後、本件各土地等は法六〇三条の二第一項及び条例一五三条の二第一項に定める特定施設の用に供する土地に該当するとして、平成六年度の特別土地保有税が免除された。
4 原告らは、本件各土地のうち別紙物件目録三(一)記載の土地三四・九〇平方メートル以外の部分(以下「本件売却土地」という。)を、分譲マンション建築用地として訴外丸紅株式会社(以下「丸紅」という。)に売却することとし、平成六年一一月一〇日、代金を総額二三億一五九九万四〇〇〇円(一平方メートルあたり四三万三六五〇円)として売買契約を締結し(乙一一)、右同日、右土地につき、丸紅を権利者とする条件付所有権移転仮登記がされた(乙四の一、二、四ないし一二)。
なお、東京都は、丸紅が建築を予定したマンションについて「租税特別措置法の規定する優良な住宅の供給に寄与する」と認め、その認定済証を丸紅に交付した。
5 本件各土地は、文化財保護法五七条の二に規定する「周知の埋蔵文化財包蔵地」に該当する「片山遺跡」内に所在していたため(乙二)、原告Bと丸紅は、平成六年九月二七日、文化財保護法五七条の二第一項の規定に従い、建築工事に先立ち、中野区教育委員会等を介して、文化庁長官に対し、発掘を実施することを届け出た(甲六、乙三)。
これに対し、中野区教育委員会から、本件各土地について発掘調査の必要があることを伝えられたことから、原告B及び丸紅は、これに応じることとして、中野区片山遺跡調査会に本件各土地についての発掘調査(以下「本件発掘調査」という。)を依頼した。本件発掘調査は、平成六年一二月一日から平成七年三月三一日までの間、実施され、その結果、重要な遺跡は発掘されなかったが、縄文時代等の遺構が確認され、先土器時代等の遺物の出土が認められた(甲七の一及び二、九、乙五の一、一二)。
6 本件各土地は、平成七年一月一日の時点においては、本件発掘調査が行われており、特定施設の用に供する土地(駐車場)としては利用されていなかった。
7 本件売却土地については、平成七年四月一二日付けで前記4記載の仮登記に基づく所有権移転登記がなされた(乙四の一、二、四ないし一二)。
8(一) 原告Aは、被告に対し、平成七年五月一八日付けで本件土地一に対して課する平成七年度分特別土地保有税(税額一七六八万九〇〇〇円)の納付申告書を、同日付けでその減免申請書を提出した。
(二) 原告Bは、被告に対し、平成七年五月二六日付けで本件土地二に対して課する平成七年度分特別土地保有税(税額一七五万九三〇〇円)の納付申告書を、同月一八日付けでその減免申請書を提出した。
(三) 原告B、同C及び同Dは、被告に対し、平成七年五月二六日付けで本件土地三に対して課する平成七年度分特別土地保有税(税額一九六七万九三〇〇円)の納付申告書を、同月一八日付けでその減免申請書を提出した。
(四) 右各減免申請書には、いずれも、減免を受けようとする事由欄に「文化財保護法五七条の二による発掘調査により土地の引渡しができなかったため。」との記載がされていた。
(甲五の一ないし三、乙六の一ないし三、乙七の一ないし三)
右各減免申請に対し、被告は、本件各土地は条例一五四条一項二号に該当しないものと判断し、本件各土地に対して課する平成七年度分の特別土地保有税を減免しないこととし、平成九年一月三一日付けの各減免不許可決定通知書をもって、申請人である原告A、原告B並びに原告B、同C及び同Dのそれぞれに対し、その旨を通知した(以下「本件各処分」という。)。
9 原告らは、本件各処分を不服として東京都知事に対しそれぞれ審査請求をしたが、同知事は、平成一〇年二月二六日、右請求をいずれも棄却する旨の各裁決をした(甲一の一ないし三、二ないし四)。
三 争点
本件の争点は、本件各土地が、法六〇五条の二、条例一五四条一項二号に定める「その他の土地で規則で定めるもの」に該当するか否か、具体的には規則三五条二項二号又は同項三号に定める土地に該当するか否かであり、これらの点に関する当事者の主張は次のとおりである。
1 原告らの主張
(一) 原告らは、本件売却土地を丸紅に対し分譲マンション(東京都より租税特別措置法の規定する優良な住宅の供給に寄与するものと認定された。)の用地として売却することとした。
本件各土地は、文化財保護法五七条の二に規定する「周知の埋蔵文化財包蔵地」に該当する「片山遺跡」内に所在していたため、前記二5記載の経緯により、原告らは丸紅とともに、本件売却土地の売却に先立ち、文化財保護法の命ずる発掘調査に協力した。
原告らは、本件売却土地の買主である丸紅から、本件売却土地を平成七年三月三一日までに引き渡すことを求められており、発掘調査を平成七年一月二日以降に開始したのではそれに間に合わないことを考慮して、平成六年一二月から開始することとしたものである。
原告らは、右発掘調査に協力したことにより、東京都教育委員会や国の文化行政に対し多大な貢献をしたことになるわけであるが、右発掘調査は原告らにとっては無価値であるにもかかわらず、その費用として実質的に合計約三〇〇〇万円近い金銭的負担をさせられたのみならず、本件発掘調査に協力するため、原告らは本件各土地での駐車場経営を丸紅に対する本件売却土地の引渡しの数か月前に取りやめざるを得ない状況におかれたものである。
二(1) ところで、本件各土地は、従前、特定施設である駐車場として利用され、法六〇三条の二第一項、条例一五三条の二第一項に基づき、平成六年度分の特別土地保有税の納税義務は免除されており、そのままの状態であれば、平成七年度分の同税の納税義務も免除されていたものである。
しかるに、原告らは、右(一)に述べたとおり、租税特別措置法に規定する優良な住宅を早期に供給するために、文化財保護法が命じる本件発掘調査に費用を負担して協力し、本件発掘調査が特別保有税の課税の基準日たる平成七年一月一日をまたがって行われたため、同日現在において、本件各土地を駐車場として利用することができない状況にあったものである。
(2) また、宅地供給と土地の有効利用の促進という特別土地保有税の目的からすれば、東京都が優良な住宅と認めるマンションの建築のために本件土地を丸紅に譲渡することは法の期待するところでもあったというべきである。
(3) さらに、本件においては、原告らは、被告の窓口担当者から、特別土地保有税減免に関する申請書類の作成と差替えを指示されていたものである。
(三) 以上のとおりであるから、原告らについては、法六〇五条の二、条例一五四条一項二号、規則三五条二項により、本件各土地に対する特別土地保有税は減免されるべきである。
2 被告の主張
(一) 本件発掘調査は、原告らと丸紅との間の本件売却土地の売買契約及びこれによる丸紅の分譲マンション建設という土木工事のために行われたものである。すなわち、右土木工事は、文化財保護法五七条の二第一項に規定する「土木工事その他埋蔵文化財の調査以外の目的で、貝づか、古墳その他埋蔵文化財を包蔵する土地として周知されている土地を発掘しようとする場合」に該当し、文化庁長官への届出が義務づけられているところから、原告B及び丸紅がその届出を行い、本件発掘調査が行われたものである。
したがって、本件は、規則第三五条二項二号に定める減免事由である、文化財保護法第五七条一項に規定されている「土地に埋蔵されている文化財についてその調査のために発掘する場合」には該当しないものである。
(二) 規則三五条二項三号に定める「特別な事情があると認められる土地」とは、土地の所有者の責に帰すことのできない事情により、行政庁の開発許可、建築確認等の手続に相当の日数を要したため、基準日までに建設等に着手することができず、免除対象土地として認定されなかった土地をいうものである。右のような事情があると認められる土地については、開発許可、建築確認等の手続の完了後速やかに建設等に着手された場合においては、当該土地が恒久的な建物、施設等の用に供されることが確実であると認められる時点において当該土地に係るこの間の特別土地保有税を減免することとされているのである。
このことを本件についてみれば、原告らは、単に、本件売却土地を丸紅にマンション建設用地として売却する必要から本件発掘調査を行ったものであり、発掘調査に相当の日数を要したため土地の引渡しができなかったということにすぎないのであって、このような事情は、右の「特別な事情」に当たらないというべきである。
さらに、原告らは、本件各土地について、駐車場として平成六年度の特別土地保有税の納税義務の免除を受けていたものであるが、原告らと丸紅との間の平成六年一一月一〇日付けの本件売却土地の土地売買契約により、原告らは、本件売却土地を丸紅に譲渡することにより、そもそも自ら本件各土地を利用する意思を有しなくなったものであるから、この点からも、本件各土地が規則三五条二項三号にいう「特別の事情」があると認められる土地に当たらないことは明らかである。
第三 当裁判所の判断
一 前記第二の二記載の事実に証拠(甲三、八、九、一〇の1ないし3、一一、一二、乙五の1、六、七の1ないし3、一〇、一一、原告B本人)及び弁論の全趣旨を併せれば、原告らが本件発掘調査を行うに至った経緯について、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
1 原告らは、平成六年春ころから、銀行の紹介により、丸紅との間で、本件売却土地をマンション用地として売却する交渉を開始し、同年秋ころには概ね合意に至っていた。
2 丸紅担当者らは、平成六年九月ころ、中野区教育委員会(中野区立歴史民族資料館)の担当部署を訪問し、本件売却土地における発掘調査の必要性、経費、期間等について聴取したところ、同委員会より、発掘調査の必要があること、経費は総額二九六〇万円程度であること、所要期間は約四か月であり、同年一二月一日から発掘調査をするのであれば同年一一月中旬にはプレハブ事務所及び仮囲いの設置を行うべきこと、同年一〇月中には既存家屋の撤去と駐車場の解約を完了すべきこと等の回答を得た。
そこで、原告B及び丸紅は、平成六年九月二七日、文化財保護法五七条の二第一項の規定に従い、発掘の実施を届け出るとともに、同年一一月一一日、中野区片山遺跡調査会に対し、中野区片山遺跡発掘調査を委託する旨の契約を締結した。
3 他方、原告らと丸紅は、本件売却土地について、平成六年一一月一〇日付け売買契約書を作成した。右契約においては、本件発掘調査は平成七年三月末日までに完了することを目処とすること、本件発掘調査が右期日までに完了するように契約当事者双方が協力すること、本件発掘調査に必要な費用は丸紅の負担とすること、本件発掘調査が完了した時点において、本件売却土地の引渡し及び所有権移転本登記に必要な一切の書類の交付と引き換えに、売買残代金二〇億八四三九万四六〇〇円の支払がされることがそれぞれ合意された。
また、原告らは、本件発掘調査に協力すべく、駐車場利用者との間の賃貸借契約を平成六年一〇月末ころまでの間に解除し、本件各土地上の駐車車両を除去して、駐車場経営を終了した。この時点において、原告らは、駐車場経営の終了に伴い、今後本件各土地について特別土地保有税の納税義務の免除が受けられなくなるとの認識を有していなかった。
4 本件発掘調査は、平成六年一二月一日から実施され、その発掘調査の範囲は、合計一〇二二平方メートルに及んだ。なお、原告らは先に住友不動産株式会社に本件各土地等を売却しようとし、その際、昭和六一年七月から同年一〇月にかけて、埋蔵文化財の発掘調査が行われていたところ、その発掘調査の範囲(六四五平方メートル)は、本件発掘調査の範囲と隣接する位置にあるものの、場所を異にするものであった。
5 原告らは、平成七年五月ころ、本件各土地に対する平成七年度分の特別土地保有税の納税のしょうようがあったので、被告の窓口に赴いたところ、担当職員から特別土地保有税の減免申請書を提出するよう指示を受け、同申請書を提出することとなった。原告らは、右減免申請書に、減免を受けようとする事由として、「片山遺跡調査のための発掘作業等により平成六年一二月一日より平成七年三月末日まで駐車場の営業ができなかったため。」と記載したが、後に右申請書の差し替えを行った際、被告の担当者の指導に従い、減免を受けようとする事由として、右申請書に「文化財保護法第五七条の二による発掘調査により、土地の引渡しができなかったため。」と記載した。
二 そこで、本件各土地が規則三五条二項二号又は同項三号に定める土地に該当するか否か(争点)について判断する。
1 本件各土地が規則三五条二項二号に該当するか否かについて
(一) 規則三五条二項二号は、「文化財保護法五七条一項に規定する埋蔵文化財を包蔵していることにより条例一五一条一項若しくは一五二条一項の認定若しくは確認又は一五三条の二第一項の認定を受けることができないもの」を、減免対象の土地として定めている。
右規定に関して、被告は、本件発掘調査は、調査目的のための発掘について定める同法五七条一項に基づく発掘ではなく、土木工事等のための発掘について定める文化財保護法五七条の二に基づく発掘の届出に付随して行われたものであるとして、右規定の適用がない旨主張する。
(二) そこで検討するに、右規定は、条例一五四条一項二号の「公益のため直接専用する土地その他の土地で東京都都税条例施行規則で定めるもの」との条項を受けて規定されたものであるところ、右規定は、文化財保護法が埋蔵文化財の調査等のために土地の所有者が協力すべきことを要請していることに配慮し、土地において学術目的の調査が行われたことにより、条例一五一条一項若しくは一五二条一項の認定若しくは確認又は一五三条の二第一項の認定を受けることができないため、特別土地保有税の納税義務の免除がされない土地につき、同税の減免措置をとることができることを定めたものと解される。
ところで、文化財保護法五七条の二は、「土木工事その他埋蔵文化財の調査目的以外の目的で、貝づか、古墳その他埋蔵文化財を包蔵する土地として周知されている土地を発掘しようとする場合には」、工事着手の六〇日前までに文化庁長官に届出なければならない旨定めている。
右届出は、埋蔵文化財の発掘又は遺跡の発見の届出等に関する規則(昭和二九年文化財保護委員会規則第五号)二条に定めるところにより、必要事項を記載した書面に添付書類を添え、都道府県教育委員会を経由して行わなければならない(同法一〇三条一項)が、運用上は、その前に市町村(東京都においては特別区)教育委員会を経由するものとされている(乙一二及び弁論の全趣旨)。右届出書の提出を受けた都道府県教育委員会は書類を文化庁長官に進達する場合、意見を付さなければならない(同法一〇三条二項)が、通常は、右届出書が提出されたときに、都道府県又は市町村教育委員会が、計画されている土木工事と埋蔵文化財の取扱いについて、工事等の事業者と協議・調整し、その結果を基に具体的な意見を付している(乙一二及び弁論の全趣旨)。
また、文化庁長官は、埋蔵文化財の保護上特に必要があると認めるときは、届出に係る土木工事に関し、必要な指示をすることができる(法五七条の二第二項)が、通常、都道府県教育委員会等が事業者等と事前の協議・調整を経た場合にあっては、それによる合意事項を基本的な内容とする指示が行われるものであり、現在、右の指示については、各事案に応じて定型的な措置でよい場合には、各都道府県教育委員会等の段階で同内容の指導をする取扱いとなっている(乙一二及び弁論の全趣旨)。
要するに、文化財保護行政の実際においては、同法五七条の二第一項による届出がなされると、その届出を受けた市町村教育委員会は、発掘調査の必要性の有無を検討し、その必要性があると判断された場合は、計画されている土木工事等と埋蔵文化財の取扱いについて、工事等の事業者と協議を行い、関係者との合意に基づき、埋蔵文化財の調査が行われるという手順を経ることが予定されているのである。そして、右のようにして実施される同法五七条の二第二項による指示に基づく調査は、その調査自体、学術目的に寄与すべくなされるものであり、また、土地所有者による同意のうえ発掘調査が行われ、発掘調査の規模及び期間につき土地所有者の意向が反映されうるという点では、同法五七条に基づく調査目的による発掘における調査と基本的に差異がないと考えられる。
そして、規則三五条二項二号が、「文化財保護法五七条一項に規定する埋蔵文化財を包蔵していることにより」と定めるにとどまり、「文化財保護法五七条一項に規定する埋蔵文化財についてその調査のため土地を発掘する場合」とまで定めていないことをも考慮すると、右規定は、純粋に学術調査目的によって行われる発掘調査と、土木工事等のための発掘に伴い行われる学術調査目的の発掘調査とを区別していないと解することが相当であり、右規定における同法五七条一項の引用は、埋蔵文化財の定義の必要上なされているにすぎないというべきである。
2 さらに、規則三五条二項二号は、減免を受けることができる場合につき、「埋蔵文化財を包蔵していることにより」特別土地保有税の納税義務の免除の認定等を受けられないものと規定しているところ、その趣旨は、埋蔵文化財の包蔵が、右免除の認定等を受けられないことに関して直接的な原因となつていることを求める趣旨であると解される。
これを本件についてみると、原告らにおいては、本件売却土地の売却に伴って顕現した文化財保護行政上の必要性から、発掘調査に応じたものであり、当該調査の必要上、本件各土地における駐車場の経営を止めたものであったこと、中野区教育委員会からの要請により、本件発掘調査は四か月の期間をかけて行われることとなり、その期間中は駐車場の経営を停止しなければ本件発掘調査は行い得ないものであったこと、本件売却土地において、発掘調査が基準日を挟んで実際に行われていたこと、本件売却土地の丸紅への引渡しは本件発掘調査終了後直ちに行われたこと、仮に発掘調査が行われなかったと仮定した場合、原告らにおいて基準日の時点で駐車場の経営を停止していたであろうことをうかがわせるに足りる証拠は存在しないことなどを総合して判断すれば、本件においては、埋蔵文化財の包蔵により、学術目的の発掘調査に協力したため、本件各土地について特別土地保有税の納税義務の免除の認定等を受けられなくなったものであり、したがって、埋蔵文化財の包蔵が、右免除の認定等を受けられないことに関して直接的な原因となっていると評価することができる。
これに対し、発掘調査の実施に伴い駐車場経営を終了すれば特別土地保有税の納税義務の免除を受けられなくなることを原告らが認識していれば、原告らにおいて、発掘調査の開始時点を発掘調査が基準日にかからないように選択するか、または所有権移転時期を変更することにより、特別土地保有税の賦課を免れることが不可能ではなかったという点は、右認定を覆す事情とはいえない。
3 以上によれば、本件各土地は、規則三五条二項二号に該当するというべきであり、これに該当しないとして原告らの各減免申請を不許可とした被告の本件各処分は、違法なものというべきである。
三 よって、原告らの本件請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 青柳馨 裁判官 谷口豊 裁判官 加藤聡)